MTK小説「Twilight」





山ちゃんは、モンゴスタン王国の自宅の屋根裏部屋で寝ていた。
山ちゃんの仕事はトレジャーハンター。
女の子に弱いのが玉にキズではあるが、世界でもけっこう有名なトレジャーハンターで、今までもたくさんのお宝をゲットしている。
今もモンゴスタン遺跡にある伝説のトライアングルを探して、1ヶ月ほど前からこの国に滞在していたのだった。
しかし今日の探検も無駄骨に終わり、山ちゃんは疲れてぐっすりと眠っていた。
山ちゃんが寝ている屋根裏部屋には天窓があり、外の薄明かりが山ちゃんの顔を照らしている。
すると、夜明け間近の月明かりとは思えないような強い光がきらめき、山ちゃんは目を覚ました。

山:「うん?なんだ?」
寝ぼけながらも山ちゃんは、窓越しに見える満月の中心に黒い点のような物があるのに気づいた。
しかもそれはぐんぐんと大きくなってくる。

山:「えぇ?なんだぁ~!!」

“がっしゃ~~~ん”

山:「ぐぇぇっ!!」
顔面に何かが直撃した山ちゃんは、悶絶しながらベッドから転げ落ちた。

山:「いててて…なんなんだ?」
山ちゃんが顔を押さえながら起きてベッドを見ると、2人の小さな女の人が毛布のうえで絡まって転がっている。
山:「なんだこれ?」

山ちゃんはおそるおそる、つついてみた。
するとその小人はぴょんと飛び跳ね、怒った様子で何かを言おうとしている。
よくみると、その小人はモンゴスタン王国の宮廷衣装を着ていた。
どうやら王宮の人らしかったが、人だかどうかも山ちゃんにはわからなかった。

山:「おいっ、あんたたちいったいなんなんだよ」 しかしその小人はチョコチョコと動き回って飛び跳ねているだけだった。
山:「なんだよ、しゃべれないのかよ」
すると小人は小さく何度もうなずいていた。
山:「何の用事なんだよ」
小人は一枚の写真を山ちゃんに見せた。
山:「だれだよこれ?……いや、待てよ……どっかで見たことあるぞ……そうだ、たしかモンゴスタン王国の王女様じゃないのか?けっこうかわいいからファンなんだよ、俺。……確か…ナナーセ王女じゃなかったっけ?」
小人は何度もうなずいた。
山:「で、そのお姫様がどうしたんだよ?」
すると小人は、何かをジェスチャーで伝えようとしているようだった。
山:「え~っと……お姫様が…ダンスした」
小人たちは首を振って、またジェスチャーをしている。
山:「じゃあ……強盗か?」
小人たちは地団駄を踏んでいる。
どうやら残念がっているようだ。
山:「お、近いのか……それじゃ……誘拐?」
小人は何度もうなずき、拍手して喜んで飛び跳ねている。
山:「どうやら当たったみたいだな。ってことは俺に助け出してほしいってことか?」
小人たちはさらに何度もうなずき、山ちゃんに拝むように頼んでいる。
山:「でも誰にさらわれたんだよ」

そう言った瞬間、凄まじい轟音が鳴り響き、家を揺らした。
山ちゃんが窓から外を見ると、大きな蛇のような物が空を飛び去っていった。
山:「なんだよ…あれ…。まさかドラゴンじゃねえよな…。世の中には俺が知らないものがまだあるな…」
すると小人たちが山ちゃんのズボンをクイクイと引っ張っている。
山ちゃんが見ると、小人は飛び去っていった蛇のようなものを指差していた。
山:「おいおい……王女様をさらって行ったのって……まさかあれ?」
小人たちは何度もうなずいていた。
次の瞬間、山ちゃんはすぐにベッドに入って毛布をかぶった。
すると小人たちは山ちゃんの顔の上で叩いたり、髪を引っ張ったりして騒いでいる。
山ちゃんはめんどくさそうに吐き捨てた。
山:「だめだめだめ。あんな得体の知れないもの相手に出来るかよ。この国では知らねえけど、俺の国では「君子危うきに近寄らず」って言って、あぶねー橋は渡んねえんだよ」
すると小人たちは、また何かをジェスチャーで伝えようとしていた。
山ちゃんがそっと見てみると、二人はキスのまねをしているようだった。
山ちゃんはガバッと飛び起きた。
山:「なに?……もしかして…お礼はお姫様のキス?」
小人はうなずいて、山ちゃんに手を合わせてお願いした。
山:「よっしゃぁぁ!!男、山元、行くっきゃないでしょ!!待ってろ、ナナーセちゃん!!」

そして山ちゃんは窓から外へ飛び出し、ガレージへダッシュした。





母屋のすぐ隣にガレージがあり、山ちゃんの長年のパートナーである俊輔は、このガレージで寝るのが常だった。
俊輔は山ちゃんよりちょっと年上だが、どちらが上というような間柄ではなく、二人は兄弟のように仲がよかった。
そして俊輔はメカと地理にめっぽう強く、頼りがいのある相棒である。
お金にがめついのがたまにキズだが…。

ドアを勢いよく開けて入ると、俊輔はガレージにハンモックを張り、その上で寝袋に入って寝ている。
山ちゃんはぐっすり眠っている俊輔に頭突きをかました。
山:「おい、俊ちゃん。起きろよ!!すぐ出かけるぜ!」
俊:「……」
山:「起きろってば!」
俊:「……昨日遅かっただろ…もうちょっと寝かせろよ…」
山:「寝てる場合じゃないって、仕事だ仕事」
俊:「今日は全休だって言ってたじゃんかよ」
山:「そんなの予定変更だって。すぐ飛行機出してくれよ」
俊:「……飛行機でどこに行くんだよ」
山:「お姫様救出大作戦!!」
俊:「また女か……一人でやってくれよ……」
山:「おいおい、マジだって」
俊:「……」

俊輔は寝袋にもぐりこみ、動こうとしなかった。
起きない俊輔を見て山ちゃんは考えた。
そして俊輔の耳元でささやいた…。

山:「だって相手はお姫様なんだぜ…」
俊:「……」
山:「ってことは、お父さんはお金持ち…」
俊:「……」
山:「娘が助かりゃ、そりゃ王様は大喜びだよな…」
俊:「……ってことは……」
山:「ってことは……」
山&俊:「お礼がガッポリ!!」
俊:「うっしゃぁ~~いったるでぇ~~!!待ってろ、マネーちゃん!!」

絶叫する俊輔の目の色は完全に変わっていた。

二人は飛行服に着替えガレージのシャッターを勢いよく開けると、そこに真っ赤な飛行機が姿をあらわした。
二人が外へ飛行機を移動させると、早朝の薄明かりに照らされ、ボディーの横の「CHIHIRO」という文字が浮かび上がった。
この単発レシプロの双翼機が山ちゃんの愛機「CHIHIRO号」である。
山ちゃんは、その文字の部分に軽くキスをした。
これが飛行前の恒例の儀式だ。

俊輔は後部座席の計器をいじりながら、山ちゃんに聞いた。
俊:「ちひろちゃんは知ってんのか?」
山:「いや、言ってない」
俊:「大丈夫なのかよ?」
山:「いちいち断ってられるかっての。いいんだよ事後報告で」
強がる山ちゃんを俊輔は冷めた目で見ながらつぶやいた。
俊:「そんなこと言っていっつも怒鳴られてるじゃんかよ…」
山:「は?なんか言ったか?」
俊:「いや、なんでもない。ところでさ、ナナーセ王女ってやっぱカワイコちゃんか?」
山:「いまどきカワイコちゃんはねえだろ。ほら、写真を持ってるぜ、見てみな」
山ちゃんは俊輔に写真を投げ渡し、荷物を取りにガレージに戻った。

山ちゃんがかばんを持って飛行機に戻ってくると、俊輔はまだじっと写真を見ていた。
山:「いったいいつまで見てんだよ」
俊:「え?ああ。かわいいじゃんか。さすがはお姫様」
しげしげと写真を眺めながら俊輔は言った。
俊:「この写真くれ」
あまりの唐突な要求に、山ちゃんびっくりした。
山:「ダメに決まってんだろ」
俊:「いいじゃんか。どうせお前は、助け出してキスのひとつでももらおうって腹なんだろ?」
山:「いや…それは…」
俊:「そっか、ダメか。わかったよ、じゃあちひろちゃんを起こして……」
山:「わ~ったよ。持ってけ!」
俊:「オッケ~、商談成立。いつでも出発できるぜ」
山:「じゃあすぐに出発だ」
山ちゃんはそう言うと、操縦席に飛び乗った。
山:「よし、行くぜ俊ちゃん」
俊:「………」
山:「まったく返事ぐらいしろよ、エンジン始動!!」

“ガルォン、ガルォン、ガルルルルルル……”

そして二人を乗せた「CHIHIRO号」は飛び立ち、あっという間に雲を突き抜け、水平飛行に入った。
すぐ下には雲が絨毯のように広がり、どこまでも続く青い空と顔に当たる風が気持ちいい。

山:「なあ俊ちゃん。ナナーセ王女ってさぁ、どんな性格かなぁ」
「王女ってこの写真の人でしょ?」
その言葉を聞いた山ちゃんはドキッとした。
その声は明らかに俊輔ではない。しかも聞き覚えのある声だった。
山ちゃんがおそるおそる後ろを振り返ると、後部座席にはちひろが座っていた。
山:「げげっ。ちひろ!!」
山ちゃんはすぐに前を向いた。
前を向いたままこちらを見ようとしない山ちゃんに、ちひろは声を荒立てた。
ち:「この浮気者!」
山:「いや、こ、これには訳が…」
ち:「どんな訳よ!」
山:「いや…ほら…人助けなんだよ」
その屁理屈めいた言葉に、ちひろは冷めた口調で返した。
ち:「へぇ、人助けねぇ…。いつからそんな慈善家になったんだったかしら」
山:「いやそれは…」
ち:「お姫様なんだって?かわいいわねぇ…」
だんだんとトーンが低くなる声に山ちゃんはびびった。
山:「それはさ…ほら、ちーちゃん。ほら…あの…そうだ、発掘費用なんだよ。今、困ってるじゃんか。それで…お礼目的でさ」
ち:「へぇ~、お礼が貰えるんだ…。ふぅん…それだけ?何か隠してない?」
山:「おっ俺がちーちゃんに隠し事するわけないじゃん」
ち:「竜一がちーちゃんって言うときは、絶対あやしいのよ」
ちひろは座席に付いている機関銃を山ちゃんに向けた。
ガチャッという安全装置を外す音が山ちゃんの耳にも届いている。
ち:「本気で打つわよ」
山:「いやその……ごめんなさい」
ち:「まあいいわ、相手がお姫様なら、お礼がもらえるってのもまんざらウソでもないだろうし。行きましょう」
山:「そうこなくっちゃ。愛してるぜ、ちひろ」
ち:「ほんっとに調子いいんだから」
そして二人を乗せたCHIHIRO号は、右へ旋回しスピードを上げた。





しばらくすると、下の雲海に黒い巨大な影が広がった。
それに気づいたちひろは叫んだ。
ち:「竜一!下よ!下に何かいるわ!よけて!」
山:「よっしゃぁ~、まかせとけ~」

旋回するちひろ号から、雲海から飛び出している大きな生き物が見える。
山:「あの時見た蛇みたいなやつだ!」
ち:「っていうかうなぎじゃないの、あれ。何でうなぎが飛んでんのよ」
山:「よくわかんないけど、あれにお姫様が誘拐されたことだけは確かだ」
そう言うと山ちゃんは操縦桿を押して、うなぎを追って雲海にもぐった。

雲海を抜けると、目の前に巨大うなぎが悠然と飛んでいる。
山:「ほんとにデケ~な」
ち:「竜一。ひれのところに誰かいない?」
山:「あ、ほんとだ。よし、確認してみようぜ」
山ちゃんはさらにスピードを上げた。
その頭の脇にあるひれの部分にナナーセ王女がしがみついていた。

CHIHIRO号がうなぎの横を通り過ぎようとすると、うなぎの目が山ちゃんをにらんだ。
次の瞬間、うなぎは方向転換して遠ざかり、雲の塊に入った。
山:「やべぇ~、追いかけるぞ」
山ちゃんは操縦桿を倒し、旋回して追いかけようとした。
雲の塊を抜けた瞬間、ちひろは叫んだ。
ち:「竜一!!前!!」
山ちゃんの目の前には、さらに方向転換したうなぎがこっちに向かって一直線に飛んできている。
ち:「竜一!旋回して!!」
山:「いや、このまま行くぞ!」
ち:「このままじゃぶつかるわよ!」
山:「ちひろ!!あのうなぎ野郎の横をすり抜けるから、その時、横の赤いボタンを押せ!!」

ち:「なんなの!?」
山:「いいから押せ!!」
ち:「わかった!」

ちひろ号と巨大うなぎがすれ違う瞬間、ちひろはボタンを押した。
すると、飛行機のボディーからハリセンが伸び、うなぎの頭を張り倒した。

“バッシ~~~~ン☆☆☆”

山:「やったぜ!!大成功だ。さすが俊ちゃんのスペシャルウエポンだぜ。いやっほう~~!!」
ち:「って、竜一。うなぎ落ちていってるんだけど…」
山:「やっべぇ~、そうだったぁ~」
ち:「そうだったってあんたねぇ、どうすんのよ」
山:「背面飛行で近づくから、ちひろ、お前が王女様を捕まえろ」
ち:「わかったわ」
山:「よっしゃぁ~、いくぞ~」

CHIHIRO号は墜落していくうなぎを追いかけて、急降下した。
山:「もうちょっとだ!!」
地面はどんどんと近づき、コクピットの高度計は狂ったように回り続ける。
山:「よし今だ!!捕まえろ!ちひろ!!」
ち:「捕まえたわ!!」
山:「よっしゃぁ~!!離脱だぁ!」
山ちゃんは操縦桿を力いっぱい引っ張った。
山:「あがれぇ~~~!!!」
ち:「あがってぇ!!!」
地面すれすれのところで、CHIHIRO号は姿勢を持ち直し、上昇した。
山:「よっしゃぁ~~!!成功だぁ~!」





ガレージの前に停めたCHIHIRO号の横に山ちゃんとナナーセ王女は立っていた。
ちひろがガレージに行くのを見計らって山ちゃんはナナーセ王女に声を掛けた。
山:「ケガはない?」
ナ:「大丈夫です」
ナナーセ王女のかわいらしい笑みに、山ちゃんはメロメロになった。
山:「そりゃよかった」
ナ:「本当に助かりました。あなた方は命の恩人です」
山:「いやいや、当たり前のことをしたまでですよ」
ナ:「ぜひお礼をさせてください。遠慮なく何なりとおっしゃってください」
山:「えっと……お付きのちっこいのから聞いてると思うんだけどさ……じゃあ……遠慮なく……」
そう言うと、山ちゃんは目を閉じ唇を突き出した。

”ぶちゅっ”

唇にぬるっとした感触があった。
びっくりした山ちゃんが目を開けると、そこにはうなぎを持ったちひろが立っていた。
ち:「りゅ・う・い・ち・く~ん。顔のアザを増やしてあげましょっか?」
山:「げっ!!ちひろ」
ち:「さあ、王女様。この人のスケベが移らないうちにお城へ帰りましょう」
山:「待ってよ、ちひろちゃ~ん。冗談だって。俺はお前だけだよ~」
ち:「ささ、王女様お急ぎください。バカも移りますから」

夕日に照らされたCHIHIRO号の真っ赤なボディーがいっそう鮮やかに染まっている。

「Twilight」END


「TENTERE TIMES」様より、データを引き継ぎました。



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